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2013年5月31日金曜日

漫画レビュー「シドニアの騎士」

 「重力子放射線射出装置」と聞いて、これが何を意味するか分かる人は多分私と趣味が合う人でしょう。この言葉は二瓶勉(にへいつとむ)という漫画家の作品「BLAME!」に出てくるなんでも貫通させてしまう銃(拳銃からライフルまで分かれる)の名称です。原理については作中でもはっきり明かしていませんが(小型ブラックホールを連続射出するとか考えられてる)、拳銃状の武器から100メートルはあろうかという巨大人工物を貫通する描写は圧巻の一言に尽きます。

 多分私は人並み以上に漫画作品を日頃から読んでいて、現在連載中の作品で目を通しているのを上げると「暗殺教室」、「キングダム」、「極黒のブリュンヒルデ」、「進撃の巨人」、「AZUMI」などありますが、最も続きが楽しみでたまらない作品を一つ上げるのであれば、上に書いた「BLAME!」の作者である二瓶氏の最新連載作品、「シドニアの騎士」が私の中で挙がってきます。

シドニアの騎士(Wikipedia)

 この「シドニアの騎士」というのはロボットSF作品に当たるもので、普段はどんくさい主人公の谷風長道(たにかぜながて)が謎の宇宙生物である奇居子(ガウナ)との戦闘で超人的な活躍を続けるという内容です。戦闘の合間には学園ラブコメっぽい展開もあるのですがそこはさすが二瓶氏というべきか、戦闘が進むにつれて徐々に暗い局面も出始め、また光合成を行うことによって食事をとらずに生きる人間、脳味噌を換装して永遠に生きる不死の船員会など独特の設定が光ります。

 ここで話を少し脱線しますが、二瓶氏というと特にその初連載作品の「BLAME!」に顕著ですが、めちゃくちゃ濃い絵で有名です。ただこのところはマイルドな画風に代わってきているのですが、ちょうどいい比較画像がネットに転がっていたので早速引用しましょう。


 見てもらえばわかるでしょうが、「BLAME!」の頃と「シドニアの騎士」では「これほんとに同じ作者なの?」と言いたくなるくらい変貌しています。もっとも上の画像の「シドニアの騎士」の絵は第一巻の絵で、現在出ている最新刊の第十巻ではまたぞろ濃くなりつつあります。

 ここまで書いているのを見ればわかるでしょうが、率直に言って私は二瓶氏の漫画が大好きです。この人の漫画は背景に巨大な人工物を描き人間との大きさの差を遠近で表現することが有名で、明らかに並の漫画家とは違うセンスをしております。またその絵柄自体の重厚さに加え、ストーリーでも先程の「重力子放射線射出装置」を筆頭に「東亜重工」、「駆除系」、「継衛(つぐもり)」などと、近未来SF作品にはあまり似つかわしくない妙に重たい漢字を多用するところも気に入ってます。

 今回、改めて「シドニアの騎士」でレビューを書こうと思ったのは、なんでもアニメ化が決まったという発表があったためです。正直な所、いつもの如く読んでて意味が分からない展開が多いからアニメ化とかはないと思っていただけに意外な発表でしたが、それならそれでめでたいと思ってちょっと取り上げることにしました。
 それともう一つ。二瓶氏は自分の作品でスターシステムというべきか、同じ名称の人物や組織を登場させることが多いです。代表格は「東亜重工」で、どの作品でも未知のハイエンド技術を持つ企業として出てきており、「シドニアの騎士」にも重要な組織として現れます。しかもその「シドニアの騎士」の最新刊である第十巻においてはなんとなんとというべきか、とうとうあの「重力子放射線射出装置」まで満を持して登場してきました。無論、文字通りなんでもかんでも貫通させてしまう反則と言いたくなるほどの破壊力も健在です。惑星まで貫通させていたしなぁ。

 そんなわけで個人的にかなりおすすめの作品なので、巻数もまだ十巻までしか出ておらず手を出しやすいので、興味がある方は手に取ることをお勧めいたします。

  おまけ(シドニアの騎士イラスト)



  

2013年5月30日木曜日

暗殺者列伝~公暁

 大分おざなりとなっているこちらの連載ですがふと思い出してみたらいい題材があったので、本日は鎌倉幕府の三代目将軍、源実朝を暗殺した公暁を取り上げようと思います。

公暁(Wikipedia)

 まず最初に公暁の出生というか鎌倉幕府将軍の血統について簡単に解説します。初代将軍の源頼朝は男子を計4人もうけますが、長男の千鶴丸は源平の争乱時にわずか3歳で殺され、三男の貞暁は仁和寺の仏門に入りました。そのため将軍の後継となれたのは二男の頼家と四男の実朝の二人となり、頼朝の死後は順番通りにひとまず二男の頼家が継いで二代目将軍となりました。

 ただこの頼家、将軍就任後は母方の実家である北条家よりも外戚の比企氏を頼るようになり、北条家以外の昔からの御家人たちからも不興を買います。そのため北条家らによる謀略によって起こされた比企能員の変で比企氏が滅ぼされると権力を失い、将軍でありながら北条家らによって伊豆の修禅寺に追放され、そこでもまた北条家が刺客を放って23歳で暗殺されてしまいます。
 頼家がリーダーシップに不足していたのか、また吾妻鏡に書かれているように粗暴な人間だったのかはやや疑いが残りますが、旧来の御家人たちからは確かに不人気だったと思わせられる描写があり、少なくとも御家人を束ねられる人物ではなかったと私は思います。だとしたら将軍になってしまったのは彼の不幸でしょうし、暗殺までされてしまうというのも悲運以外の何物でもないでしょう。

 そうした同情論はこの際置いて話を続けますが、本日取り上げる公暁は頼家の二男です。父が暗殺されたのは彼が5歳の頃でしたが、暗殺後は頼家の後継となり三代目将軍となった源実朝が養子として引き取ります。もっとも後に暗殺にやって来るくらいだから実朝も持て余したのか、公暁が12歳になると鶴岡八幡宮へ送って出家させています。
 そんな公暁自身は本人が勝手に思い込んだのか、はたまた誰かが吹き込んだのかがミステリーになりますが、どうも父親の頼家を暗殺したのは実朝だと考えたそうです。そして将来は自分が将軍に就くとも考えていた節があり、出家していながら髪を下さずにいたとも言われます。

 そして来る1219年の1月。京都に大雪が降る中、右大臣就任を受け鶴岡八幡宮に参拝した実朝に対し19歳の公暁は、「親の仇だ!」と叫んで襲い掛かり、手下の法師数人と共に実朝を殺害します。またこの時に公暁は北条義時も狙っていたものの、当日になって体調不良を訴えて実朝の太刀持ちには源仲章に代わっていたことから義時は難を逃れました。逆を言えばこの時に仲章は義時に間違えられて殺されてしまったんですけど。
 もう一気に書いてしまうと、上記のような背景があることからそもそもこの暗殺は源家の血筋を絶つために仕組んだ北条家の自作自演劇だったという説が絶えません。また北条家以外にも天皇家や他の御家人が公暁を唆したという説は絶えないのですが、検証することはできないまでも説としては確かに筋は通ります。

 それで話は公暁に戻りますが、公暁は実朝の暗殺後、実朝の首を持って後見人の備中阿闍梨の家に向かいます。そして旧知の三浦義村に「自分はこれから将軍になるから準備を進めるように」と使いを出すわけなのですが、なんていうかこの辺りはやっぱまだ19歳のガキだなとか私は思ってしまいます。
 使者を受けた三浦義村は曖昧な返事で時間を稼ぐとすぐに北条義時へこのことを知らせます。一方、なかなか返事が来ない公暁が義村の家へと向かうと時すでに遅く、そこにはたくさんの追手が待ち受けていたという話です。ただそこはやんちゃな19歳。腕力は相当あったようで追っ手を散々に蹴散らしたそうですが、最後は義村の家の塀をよじ登ろうとしたところを打ち取られてしまいました。

 やっぱりこの公暁の暗殺劇を見ていると、どう見たって黒幕がいるとしか思えない筋書です。ただ19歳にもなって自分が騙されていると気付かない公暁も公暁で、彼の破滅は自業自得としか言いようがありません。

 最後に実朝についてもう少し触れますが、この暗殺の黒幕に挙げられている後鳥羽上皇とはそこそこ仲が良く、両者ともに公武の連携を模索していたと言われます。仮にこの関係をブラフとして使っていたのであれば後鳥羽上皇は大したものですが、承久の乱を見る限りだと意識先行型な感じも受けます。
 それと、公暁に殺された後に実朝は首を持って行かれたのですが、公暁が打ち取られた際に実朝の首は見つからなかったそうです。これを聞いて鶴岡八幡宮には夜な夜な、首のない実朝の霊が歩いたりするのかなと思ったのと同時に、去年にヒットした映画の「桐島、部活やめるってよ」のタイトルみたいに「実朝、首見つかってないってよ」というフレーズがなんかよぎりました。我ながら不謹慎この上ないと思いますが、なんか実朝さんは優しそうだから許しれくれそうな気がします。

2013年5月29日水曜日

中国で苦戦する日系デパート

 本当は別の記事を書く予定で下調べまで住んでおりましたが、前から追っかけていた中国の経済ニュースで関連記事が出ていたので、今日はこっちを優先して書くことにします。

日本資本のデパート、伊勢丹が瀋陽から撤退(人民網日本語版)

 第一報は今年初めに伝えられていたようですが、日系デパート大手の伊勢丹が瀋陽市の店舗を今月31日にたたみ、撤退するそうです。リンク先の記事では閉店セールの様子が写真に撮られてありますが、伊勢丹に限らず日系デパートはどこも、中国市場では苦戦を強いられております。

高島屋、上海店の売り上げ目標下方修正 年80億円に(日経新聞)

 どうでもいいですが上の日経新聞の記事は最初、中国語版で何故か読んでいました。百度で検索したせいだけど、冷静になって日本語で検索かけたらあっさり同じ記事が出てきたよ。
 内容は見出しの通り、去年の12月に上海市でオープンした高島屋が売り上げ目標を引き下げたそうです。この上海高島屋は私も追っていてオープン初日にはカメラ持って取材に行ったので(ただ書いた記事は自分自身でも納得できないほど悪く、実際に上司にもかなり叱られた(;Д;))思い入れがあるのですが、はっきり言ってしまうと「人気は出ないだろう」と私も感じていました。

 なんで上海高島屋が駄目だと思ったのかいくつか理由はありますが、一つはまず立地です。この辺は中国で小売業界にいる人なんかみんな知ってるでしょうが、上海高島屋はデパートが集中する浦東や南京路周辺ではなく、外国人が多く住んでいてどちらかというとビジネス街である古北でオープンしました。小売業界では、「いくらなんでもあんな立地では」という声もあれば「いやでもビジネスマン向けの需要を獲得できるかも」などと言われていましたが、結局のところ地元住民がどうも根づかなかった様です。

 その上でこれは私と以前の同僚の間で一致した意見なのですが、中国のデパートにしては致命的なまでに天井が低いと感じました。中国の建物は日本と比べ基本的に部屋の高さが高く、とくにデパートといった商業施設ではそれが顕著です。なおかつ中国のデパートやホテルには風水的な概念があって必ずと言っていいほど1階から3階くらいまで、多い所だと最上階に至るまでの吹き抜けをこしらえるのですが、上海高島屋には吹き抜けがありませんでした。
 最初に入ってみて私が感じたのがまさにこの点で、恐らく日本人からしたら平均的な天井だと思う一方、中国の感覚からしたら素直に狭い店舗だという印象があり、吹き抜けもなかったことから窮屈な感じを覚えました。厳しく述べると、ローカライズが上手くいっていないと思えます。
 その上で致命的だったのが、以下のニュースです。

高岛屋未过消防关先开业 多家商铺仍在整改(東方網)

 上記の記事は中国語ですが、ネットで調べてみるといくつかの個人ブログでは既に取り上げられています。内容を私なりに簡単に翻訳すると以下の通りです。

「上海市当局によると、昨年12月にオープンした上海高島屋に入居する複数のテナントに対して実施された消防安全設備、営業許可の査察で、数多くの不備が見つかった。テナント各社は12月のオープン時に出店が間に合わなければ保障金を没収されるという契約となっていたため、設備や許認可が不十分であることを認識しながらも開店を強行したとみられる」

 ざっとこんな感じです。高島屋本体というよりは入居テナントの問題ですが、開店から5ヶ月も経つのにまだこういう問題を残していたというのはちょっと問題だと言わざるを得ません。実際オープン当初、いくつかのテナントが非常にバタバタしていたのが強く印象に残ってます。

 以前にも書きましたが、小売りというのは手法が万国共通に見えて、実は非常にローカル臭い分野だと私は思います。日本には日本、アメリカにはアメリカ、中国には中国の小売りの仕方があって、外資というのはなかなかそういう文化的な障壁を破ることが出来ません。そういう意味ではこれまた厳しい言い方になってしまいますが、日本国内ですら売り上げの落ちているのだから、中国にオープンさせてもなかなかうまくいかないのではというのが今日の私の意見です。

2013年5月28日火曜日

韓国の近現代史~その十四、ソウルの春

 また時間が空いてしまいましたが、韓国の近現代史の連載再開です。前回では朴正煕暗殺事件を取り上げましたが、なんか一つの区切りってことで続きがやけに書き辛いです。当初は一気に進めようかなと思いましたがちょっとそこまで気力持たないので、ゆっくりやってくために今日は「ソウルの春」について書いてきます。

 絶対的な独裁者であった朴正煕が突然の暗殺によって亡くなった後、韓国では鄭昇和陸軍参謀総長が戒厳司令官となり軍部が実権を握り続けました。ただ朴正煕の後任となる大統領には朴正煕政権下で首相を務めていた崔圭夏が就き、それまでの戒厳令による政治弾圧が幾分かは緩められることとなります。

 ここで少し話を脱線させますが朴正煕政権、そしてこの後もしばらく続く軍事政権下では戒厳令といって、北朝鮮との軍事的緊張を口実に韓国国民の日常生活を非常に厳しく制限しておりました。ちょうど最近読んだ本にそのあたりのことが書いてあったのですが、当時のソウル市内ではサイレンが鳴ると公共バスを含むすべての乗用車は運転を止め、窓に覆いをして次のサイレンが鳴るまで待たなければいけなかったそうです。また大統領府に向いた建物の窓は常時閉め切った上にこちらもまた覆いをする必要があり、夜間も市民は外出が一切禁止されるなど息苦しい社会だったと言われております。密告もあったろうし。

 話は戻りますが、荒谷大統領となった崔圭夏は文民出身だったからかもしれませんが、これら戒厳令の政策を一部緩めるようになります。具体的には先程書いた大統領府へ向いている窓の覆いを取っ払ったほか、民主派政治家の一部活動も認めるようになります。これを受けて後に大統領となる金泳三とか金大中も動きを活発化させたそうです。

 このように開放的なムードが一時的に表れ、大学における学内デモや労働争議も増えていき民主化への機運も高まったわけなのですが、「プラハの春」みたいな言い方をしているだけにそうは問屋が卸すわけではありません。文民の政治活動が活発化していくことによって実権を失うのではないと警戒した軍部はすぐさま行動を開始し、戒厳令の権限を強化するなど露骨な政治関与を始めます。その一方で、軍部内での対立も徐々に強まり内部抗争も始まるわけですが、そこは次回の「粛軍クーデター」で詳しく解説します。

2013年5月27日月曜日

円安効果が家電業界に波及しない理由

 経済関連の話が続いてしまいますが、なんか早いうちに書いときたいのでもう書いちゃいます。
 さて日本はアベノミクスが打ち出されて以降、急激に円安が進んでおります。むしろこれまで極端な円高傾向が続いていたことから円安によって自動車や家電といった輸出産業は息を吹き返すだろうと予想されていたものの、自動車産業はともかくとして家電産業は息を吹き返すどころか大手メーカーを中心に未だ大赤字が続いております。

 家電メーカーで赤字が続いている要因としては単純にアップル社製品のように海外で売れる商品があまりない、そもそもの赤字額が巨大過ぎて円安効果は受けているものの黒字にまでは至れない、などが挙げられているのですが、こうした要因のほかにもう一つ私が思いつくのは、自動車に比べて部品の現地調達率と現地生産率が高いことも背景にあるのではないかと睨んでいます。

 現在、大手家電メーカーは中国なら中国、タイならタイに現地工場を作って、そこで生産した商品をそのまま現地に販売することが当たり前となっております。また商品を作るに当たって必要となるモーターや鉄板、プラスチック材なども現地で調達することも多く(日系の部品メーカーも現地に進出しているため)、言ってしまえば海外の各市場で生産から販売までほとんど完結してしまっている感があります。
 一方、自動車産業はたとえばトヨタなんかだと米国ではほぼすべて現地生産ですが、成長市場の中国ではレクサスの現地生産は行っておらず、日産のインフィニティも今現地生産工場を作っている最中ではありますが今のところは日本からの輸出販売です。自動車部品メーカーも最近は世界各地に現地工場を構えておりますが、家電部品と比べるとまだまだ日本国内でしか生産していないものも多く、家電のようにまだ当該国でサプライチェーンが完結するには至っていないのではないかと思います。

 これが何を意味するのかというと、当該国で生産から販売まで完結してしまっていると現地通貨で決済するため、日本円換算で売上高は増えるものの生産コストも同じく上昇するため、利幅で見たらそれほど大きくは変化しないということです。もちろん完結してしいても円高より円安の方がメリットは大きいのですが、日本と当該国を跨ぐ取引がなければ円安のメリットは薄くなるよりほかがありません。
 だとすると非常に皮肉な感じがします。というのも円高が非常に激しかった2011年などは海外に現地工場を作るなど現地化を進めなければ日系企業に生きる道がないと盛んに喧伝されましたが、いざ逆の円安に振れると、現地化を進めた企業ほど恩恵が受けられないという結果を招いたということになるからです。いわば現地化によって円高のマイナスの影響を食い止めたものの、円安のプラスの影響も減らしてしまったのではないかというのが私の考えです。

 このような考え方でみると、現地化が進みきっている家電業界に対し、現地化が進んでいるとはいえ家電業界ほどではなかった自動車業界とで温度差があるのも自然な気がします。これがすべての原因とは言いませんが、円安になっても未だ業績改善の兆しが家電業界に見えないというのはこうした背景も一つの要因ではないかと、久々に自分で情報を加工して考え出してみました。

2013年5月26日日曜日

「第三のエコカー」のディーゼル乗用車について

 自動車関係に詳しい方であれば当たり前の話ではあるのですが、そういう業界にいない人からの反応がやけにいいので今日はディーゼル乗用車とその世界での普及度合いについて私なりに紹介しようと思います。

 まずディーゼル乗用車とは何ぞやですが、日本で一般的なガソリンエンジンを積んだ乗用車と違ってディーゼルエンジンを積んだ乗用車を指します。ディーゼルエンジンはトラックなどには日本でも載せられておりますが、はっきり言って乗用車カテゴリにおける普及率は非常に低い状況です。それどころか東京都等で実施されている排ガス規制の影響を受け、ディーゼル車は黒煙を出すため環境にはよくないというイメージを持っている人が多いように思えますが、残念ながらこのような見方は日本独特なもので、欧州をはじめとする地域ではハイブリッド車、電気自動車に続く「第三のエコカー」としてディーゼル車に期待する声は大きいです。

 ディーゼル乗用車が何で環境にいいのかというと、ガソリン乗用車と比べ二酸化炭素(CO2)の排出量が少ないのと、熱効率が高いためガソリンではなく軽油でも走らせられることから石油消費量が少なくて済むからです。ただそのかわりにディーゼルエンジンは地球温暖化の原因物質と指摘される窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)を黒煙の形で多量に排出するため、日本では負のイメージが強いばかりか「ガソリン車と比べてCO2排出量が多い」という事実とは真逆の知識を持つ人すらたまに見受けます。
 回りくどくせずに話を進めると、これらの概念はもはや過去のものです。フォルクスワーゲン(VW)を初めとする欧州の自動車メーカーはこれらディーゼルエンジンの弱点を徹底的に改善し、NOxやSOxの排出量を劇的に減少させております。無論、CO2排出量は以前のように少ないままです。

 このように環境能力の改善が進んだことから元々普及率の高かった欧州では先程も述べたように「第三のエコカー」として人気を集め、欧州自動車工業協会によるとここ数年の欧州における年間の新車登録台数に対するディーゼル乗用車が占める割合は50%前後にも達しております。また自分も調査中に驚いたのですが、日本同様にディーゼル乗用車の人気が今ひとつ高くなかった米国でも2011年のハイブリッド車の新車販売台数が前年比2.2%減だったのに対し、ディーゼル乗用車は27.4%増と大幅に増加しております(バウムアンドアソシエートの調査による)。

 このようにディーゼル乗用車は世界で評価が高まっているものの、日本では未だに低い認知度に甘んじております。なんでこうなっているのかというと先ほども述べたように排ガス規制の負のイメージが強いことと、日本はハイブリッド車を基軸にエコカーを普及させようとする自動車業界、または国の政策方針がもしかしたらあるんじゃないかと私は睨んでいます。まぁ確かに日本のハイブリッド車技術は世界一ではあるんだけど。

 ただこのようにディーゼル乗用車の認知度が低い日本の状況下に対し、マツダがこのところ大きな風穴を開けております。この辺だったら知っている人も多いんじゃないかと思いますが、マツダは2012年2月に「CX-5」というSUVを発売しましたが、従来のガソリンエンジン搭載した仕様に加えてマツダが自主開発したディーゼルエンジン搭載した仕様(クリーンディーゼル車)も用意されました。エンジンの専門家ではないため具体的に何がすごいのかはわからないのですがどの自動車評論家もマツダが出してきたこのディーゼルエンジン仕様のCX-5を高く評価しております。実際に2012年におけるCX-5の販売台数は35438台に達して国内のSUVでトップとなり、しかもこのうちの8割はディーゼルエンジン仕様だったそうです。
 あとこれは伝聞ですが、ディーゼル乗用車の本場である欧州でもマツダが出してきたディーゼルエンジンの評価は高いそうです。最近だとCX-5だけでなくモデルチェンジした「アテンザ」にもディーゼル仕様を設けてますがこちらも人気は高いと報じられており、「ディーゼルは燃費もよく環境にいい」という認識を今後も日本で広げていくように思います。

 最後にもう少しだけディーゼルエンジンの特徴について触れておくと、ガソリン車と比べ燃費効率や環境対策能力は非常に高いものの、部品点数が多くなることから生産コストは割高となります。また同等の能力を持つガソリン車と比べ大型で重くなる傾向もあり、あと稼働時の振動も大きいことからSUVのようなやや大型の車じゃないと搭載し辛いという欠点も抱えております。もっとも各メーカーは振動対策にも力を入れており、最近だとVWやマツダみたいにセダンにも載せてくるメーカーも出ておりますが、コンパクトカークラスに載せるのは重量配分的にまだ厳しいのではないかと私は見ております。

 ざっと以上のような内容が私の知っているディーゼル乗用車に関する知識ですが、今回ここで書いた内容は自分が前職中に書いた特集記事がベースとなっております。ここからは余談になりますが中国でもエコカー推進対象としてディーゼル乗用車に対して補助金を出すような観測が出てきたので私が翻訳記事を書いたのですが、当時の上司から「ディーゼルが何でエコなの?」と聞かれ、「いやぁその見方はもう古いですよ。今のディーゼルエンジンは凄まじく進化しております」などとあれこれ説明してたら、「花園君は詳しいなぁ。折角だからその方面で一本まとめ記事書いてよ」と言われてしまって、調子に乗ってしゃべり続けたために仕事を増やしてしまいました。今に始まるわけじゃないですが、知識は過剰にひけらかすものではないと反省する羽目となりました。

今日の大相撲全勝対決(゚∀゚)

白鵬が全勝対決制す!稀勢の里1敗/夏場所(サンケイスポーツ)

 このところ人気低迷が叫ばれている大相撲ですが、今日の取り組みは注目される方も多かったのではないかと思います。その取り組みというのも横綱の白鵬関に対し日本人力士として期待の高い稀勢の里関による全勝同士の取り組みで、NHKの中継を私も見ておりましたがなかなか見ごたえのある取組でした。
 軍配自体は上記リンク先の記事にもある通り白鵬関に上がりましたが稀勢の里関も白鵬関に四つに組まれた後も何度か投げを堪えるなど、攻めと守りの駆け引きがあって見た目にも面白い取組だったと思います。

 その上で苦言というかこれは前から思っていることですが、稀勢の里関は今の幕内力士の中でも馬力というか押しの強さではトップと言っていい実力を持っておりますが、逆を言えばその馬力に頼り過ぎな感があります。というのも決まり手は押し出し、寄り切りがほとんどで、組んでから投げ技で勝つパターンがほとんどありません。それに対し白鵬関や日馬富士関(最近は金星献上が多いが)は押し相撲にも投げ相撲にもどっちにも対応でき、状況に合わせてまさに柔軟な相撲を取ることが出来ます。
 三役クラスであれば今の稀勢の里関のままでも十分だと思いますが、やはり大関たる地位にあるのだしもう少し相撲の幅を広げるというか、投げ技も研究していかなければ横綱の地位はまだ早いのではないかという気がします。もう一つ付け加えると、押し相撲偏重だと調子に成績が左右されがちで、勝ち星が場所ごとによって大きく変動するきらいもあります。

 稀勢の里関に対しては私も立派な力士だと思いますが、むしろそう思うからこそ今後はもっと投げ技を研究してもらいたいです。また白鵬関に関しては今場所はいつもながら見事な相撲の取り方で、明日は横綱戦ですが今の調子を見ている限りだと日馬富士関にも勝って全勝優勝を決めてしまうと思います。っていうかお金あるなら、一度でいいから千秋楽を国技館のいい席で見たいなぁ。
( ´・ω・`)