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2018年2月19日月曜日

忘れていた感情 前編


 上の画像は大分前にネットで話題になった漫画のワンシーンですが、廻し蹴りで何故か放射能値が下がるという破天荒な場面が描かれています。この漫画を描いたのは平松伸二氏という漫画家で、私もつい最近にネットで話題になっていたことから、「そして僕は外道マンになる」という平松氏の自伝漫画を購入して読んでみました。もっとも自伝とは言いつつも、本宮ひろ志氏が学ラン着ながらダンビラ振り回すなど、多方面で大幅な脚色がなされてますが。

 私は平松伸二氏については世代がやや異なっているということもあってその作品をあまり読んだことはなかったのですが、破天荒な設定と頭身の高いリアルな画風の持ち主として名前は知っていました。そのため今回この漫画で平松氏の経歴について初めて知ることが多かったのですが、一言で言えばとんでもない漫画エリートともいえる人物だったようです。
 というのも若干16歳で少年ジャンプに読み切りデビューを果たし、短期間のアシスタント生活を経て19歳で「ドーベルマン刑事」で連載デビュー。しかも新人の初連載作品としては史上初めてアンケート1位を取り、その後も人気上位を維持し続け看板作家として君臨したそうです。

 それ以上に目を見張ったのが、当時の少年ジャンプで毎年行われていた主要作家陣による読み切り作品企画での話です。当時、ジャンプでは漫画家10人に読み切り作品を1作ずつ描かせ、それを読者に人気投票させて競わせるという企画があったそうですが、手塚治虫、赤塚不二夫、本宮ひろ志氏、永井豪氏、池沢さとし氏、そして平松氏の師匠に当たる「アストロ球団」の中島徳博氏らというレジェンド級の面々に対し、20歳にして初参加の平松氏は投票で第2位となる人気を得たそうです。
 これほどまでに若く、且つデビュー時から高い人気を得たという漫画家ともなると、私の中では「キン肉マン」のゆでたまご氏と、こちらはややデビューがもうすこし遅かったですが「進撃の巨人」の諌山創氏くらいしか浮かばず、「漫画エリート」という意味では平松氏は屈指の存在であったということに間違いはないでしょう。

 そんな平松氏の自伝ということからきらびやかな活躍が書かれているかと思ったらさにあらず、この本の中身は実質、八割方怒りと怨念で描かれてあります。
 先ほどの読み切り作品企画では、上位2名の漫画家はヨーロッパ旅行に行けるということになっていたそうですが、平松氏は2位であったにもかかわらず実績がまだ足りていないとの判断から行かせてもらえませんでした。もっとも連載中の漫画で多忙であったことから「行かずに済んだ」ということでホッとした半面、どれだけ苦労しながら全く報われない状況に平松氏も思うところがあったそうです。

 特に平松氏の場合はデビューが異常に早かったせいもあって雇ったアシスタントは全員年上で、待遇面での諍いから途中で辞めてしまう人も出るなど、マネジメント上での苦労話もよく描かれています。何より当時部数が急上昇中の少年ジャンプ編集部からはむちゃくちゃな要求も度々出され、「人気あるけどいまいち物足りない。来週から、毎週10P追加だ!」と、限界ギリギリの作業をしているのに増ページを命じられることもあれば、高い人気を維持しているのに担当編集者から「原作付きで書いているくせに一人前とは認めねぇ!」と言われたりなど、理不尽に振り回される過程も生々しく描かれています。
 そのせいもあって作中で平松氏は度々悔し涙を流すのですが、そこへ至るまでの壮絶な過程が非常に臨場感高く描かれていることもあって、当時に平松氏がどれだけ悔しい思いをしながら漫画を描いていたのかが変に共感でき、平松氏の作品をしっかり読むのはこれが初めてですがやはりすごい漫画家であると深く納得させられました。

 それだけにと言っては何ですが、Amazonの方のレビューにも書きましたが、この「外道マン」はとにもかくにも涙が美しい漫画だと思います。特に連載1年を経て自身初めての単行本を初めて手にした際、声を挙げずに嬉し涙をボロボロと流すシーンは非常に心が打たれました。

 以上が「外道マン」の内容に対する感想ですが、実はこの漫画を読んだ後に自分は強いショックを覚えました。それは何故かというと、自分がここ数年、ある感情を完全に忘れ切っていたということに気が付かされたからです。その感情とは何か、後半へ続く……。


  

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