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2017年4月2日日曜日

トランプ政権が真に相対するもの


 過去二代のブッシュ、オバマ政権が相対していた相手を挙げるとすれば、それは間違いなく中東のイスラムテロリスト達だったでしょう。ブッシュの場合はこれにフセイン政権が含まれますが、テロリストは国家の枠組みを越え、それこそジハーディジョンのように先進国からも参加者が現れるなど敢えて言うならイスラム原理主義を旗頭にした思想集団であるため、「どこにでも敵は介在する」ということもあって国家体制を揺らがす存在でありました。もっともそれ言ったら、IRAなんかは昔から活動しているので今に始まる存在というわけでもないでしょうが
 ただこうしたイスラム原理主義テロリストは多方面の努力もあって、確実にその勢力を衰退させてきています。アルカイダはビンラディンが既に死に、ISISもイラク国内の拠点をほとんど失いもはや消滅の瀬戸際に立っています。石油利権を奪われたのが効いているのか、金のない所にはあんま人も来ないというか前ほど西欧から参加者が集うというのは見なくなってきた気もします。

 こうした前提のもと、米国の新たなトランプ政権はある程度テロリストとの戦いがひと段落した状態で政権についたと言えるでしょう。そんなトランプ政権は今後どのような相手と相対するのかと言えば私個人としては中国でもメキシコでも移民でもなく、案外グローバル企業なのではないかと考えています。

 トランプ政権が標榜している政策はある程度皆さんもご存知でしょうし、米国だけの利益を追求する米国第一主義と呼ばれていることも知っておられるでしょう。ただ彼の主張をつぶさに見ると、米国の企業を応援や優先しているのかといったらそうでもなく米国内で雇用を生む企業の立場に立っているというか、米国以外の活動で荒稼ぎしている企業に対して厳しい態度を取っているのではと思う節があります。具体的には米自動車メーカーで、海外に工場を作らず米国内で工場を作り米国の雇用を創出するように半ば強制しています。
 このような観点からすると中国など米国にとっての貿易赤字国に対して厳しい批判を繰り返していることも、やはり雇用という観点がキーなのではないかと見えてきます。言うまでもなく中国で作られる製品が米国内で数多く消費されることからこうした貿易赤字が生まれるわけですが、恐らくトランプ大統領の考え方としては、「値段が上昇するとしても、米国人が米国で作った物を消費すべきだ」という考え方で、「値段が低いが米国の雇用につながらない消費はするべきではない」という風にも言い変えれるかもしれません。

 自分がここで強調しておきたいのは、私の考えるトランプ大統領の最大優先事項は「米国の繁栄」ではなく「米国の雇用」だということです。雇用が減少するから移民も減らすべきだし、貿易赤字国にはいくらでもいちゃもんをつける(でもって黒字国には何も言わずに輸出し続け稼ぎ続ける)。勝手な想像ですが、トランプ大統領とその周囲はもしかしたら米国内での生産を優先することによって製品価格が上昇したとしても、国内雇用が増加すれば個人所得も増加するため経済競争力は落ちず、むしろ市場規模が大きくなると考えているのかもしれません。
 こうした価値観は必ずしも的外れというわけではないと私には思います。グローバル企業の立場からすればアジアやアフリカなど労働力の安い海外で生産して市場の大きい米国や日本で販売した方が利鞘が大きくなりますが、国家単位で考えれば海外産の安い製品によって国内生産品は価格競争によって値段を落とし、また海外で生産される分だけ国内雇用も減少します。しかし、日本のように国内労働力が不足している場合は上記デメリットはなく、また企業が海外で稼いだ分だけ本国で税金を納めるのであれば、国としてもこうした海外生産を推進する立場でいられるでしょう。

 私の考えるトランプ政権の姿勢はこうしたグローバル企業の戦略と相容れません。さすがに鎖国とまではいきませんが国内生産国内消費を第一に、企業に対し米国で物を売るなら米国で物を作るように求めているように私には見えます。だからこそ私は、トランプ政権にとっての最大の敵はグローバル企業で、たとえ企業に損をおっ被せてでも米国に貢献するよう求めているのだと思います。企業側からしたら鬱陶しい意見のように感じるでしょうが、私個人としては企業側にも全く負い目がないわけではないと断言できます。
 というのもグローバル企業はあまり大きく発展しなかったパナマ文書やAmazonの様に、タックスヘイブンに拠点を置いて国家への納税義務を回避することが最近では当たり前になりつつあります。またSFの世界の様に一部グローバル企業は一面において国家を凌ぐほどの影響力を持っており、実際にサムスンなどは韓国政府以上の力を持っているのではないかと私には思います。そうした国家を凌がんばかりに増大するグローバル企業の影響力に、ある意味ではトランプ政権は歯止めをかけようとしているという風にもみえないこともありません。

 ただこの見方で何が一番面白いのかというと、それこそ最初に上げたイスラム原理主義テロリストの様に国家の枠組みを越えて拡張しつつある企業に対し歯止めを掛けようとしているのが、企業家出身のトランプ大統領だということです。もっとも彼の出身業種は不動産業(プロパティ)で、ある意味ローカル色が一番強い業種でもあることからこうした価値観や姿勢を持つに至ったのかもしれませんが。実際、プロパティは国内のインフレによって財を成すしなぁ。

 久々に真面目な記事を書いてみましたが、割と日本のトランプ政権の報道を見ていて感じるのはこうした世界経済的な観点が抜け落ちてるように見えます。トランプ政権が何をして、どのように貨幣や物品の流れを変えようとしているのか、それによって価格はどうなるのかを言及せずに「米国第一主義」とまとめるのはやや強引であるように私には思います。
 また補足的に述べるとこれまでは如何に国際分業を進めるかという経済学がブームでしたが、今後はどこまでを海外からの輸入に頼って、どこまでをデメリット覚悟で国内生産で持たせるかという塩梅議論が重要になってくると予想します。この議論で敢えて私から言うならば、日本食は9割方しょうゆなしでは成立しないことから、大豆だけはどんなに値段が高かろうと全国産化を目指すべきだと言いたいです。輸入していい大豆は節分の時に鬼に向かって投げる豆だけでいい。

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