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2014年10月9日木曜日

創業家列伝~季琦(華住酒店集団)

 この連載ではこれまで既に逝去済みというか過去の創業家しか取り上げてきませんでしたが、ちょうどニューヨーク証券取引所に上場したアリババとそのCEOのジャック・マーこと馬雲が注目されていることもあるので、今日は現役バリバリで私が面白いと感じている中国の創業家を取り上げようと思います。
 中国に住んでいた、もしくは一定期間滞在したことのある人なら恐らく「如家酒店」、もしくは「漢庭酒店」という名前のビジネスホテルを見た、もしくは聞いたことがあるかと思います。この二つのビジネスホテルは文字通り中国のどこでも、上海みたいな大きな都市に至ってはどの地下鉄駅前にも一軒か二軒は見受けられ、覚えるつもりはなくてもいつの間にか覚えてしまうくらいやたら多く見かけます。まぁそれだけチェーンネットワークが行き届いているということなのですが、この二つのビジネスホテルチェーンの名前は知っていても、二つとも同じ創業家によって設立されたという事実は日本人はおろか中国人の間でもあまり知られていません。その創業家こそ、今日取り上げる季琦という人物です。

季琦(百度百科、中国語)

 季琦氏は1966年の生まれで、江蘇省の南通市如東県の出身です。今だったら南通もそこそこ発展していますが季琦氏が生まれ育った頃はほかの中国の都市と変わらず辺鄙な田舎で、大学進学に合わせて初めて上海にやってきたときについて季琦氏は、「かなりのカルチャーショックを受けた」と述べています。
 季琦氏は進学先の上海交通大学で機械科に入り大学院まで進んで卒業した後に上海市内の国有企業に就職しますがどうもしっくりこなかったようで、二年くらい勤めた後に退職し、貯金したお金を持ってアメリカに半年間ほど(一年って書いてあるサイトもある)旅行に出かけます。どこで読んだか忘れましたがこの記事を書くに当たって中国の後のサイトを調べていたらその時のアメリカ旅行でもカルチャーショックを受けたことが書かれてあり、「上海は凄い進んでいるかと思ったがアメリカの都市はもっと進んでいる」と述べたそうです。まぁそりゃそうだろう。

 アメリカから帰国後の1995年、季琦氏は知人と一緒にシステム開発などを行うIT会社を設立して企業家としての第一歩を踏みます。起ち上げた会社は中国の改革開放政策の追い風を受けてグングンと成長していくのですが、彼の大きな転機となるのはなんといっても1999年の「携程旅行網(シートリップ)」という旅行予約サイトの起ち上げです。
 こちらも中国でそこそこ長く住んだ人間なら言わずもがなですが、日本ではまだちょっと知名度が低いと思うので簡単に説明します。携程旅行網ことシートリップというのは中国で最大手の旅行予約サイトで普通の中国人なら知らないものはいないくらいの高い利用率を誇ります。日本で言えばJTB(私はあんま使わないけど)くらいの影響力を持っており、日本語で表示した上で日本円に換算した料金表示で中国のホテル予約が出来ることから私もこのところよく使っています。ぶっちゃけ、簡体字の方が見やすいけど。

 このように私もべた褒めする位にシートリップはインターネット黎明期ということもあり、先進的なサービス性などで中国の旅行予約市場を一気に握って急成長を遂げ、2003年にはアメリカのナスダック市場への上場も果たします
 このシートリップの成功一つとっても大した経営者だと評価してもいいのですが、面白いことに季琦氏はシートリップとは別業種の会社を2002年にまた起ち上げています。その会社こそ恐らく現在の中国ビジネスホテル市場で最大手に当たる「如家酒店集団」です。この会社はシートリップと首都旅遊集団の合弁によって設立されたのですが、季琦氏は2002年の設立に合わせシートリップ総裁から如家酒店集団のCEOに役職を変えております。当時の中国のビジネスホテル市場を実際に見てたわけでないし詳しく検証もしておりませんが、恐らくこの如家酒店は民間のビジネスホテルチェーンとしては初めて出てきた本格派だったようで、こちらもシートリップ同様に設立から瞬く前に店舗数、業績で急成長を遂げ、なんと設立から4年後の2006年にはこちらもナスダック市場への上場を果たしております。

 二つの会社、それも異なる業種でナスダックへの上場を果たす企業を創ってる時点で明らかに只者ではないのですが、実は如家酒店が上場を果たした時には季琦氏はこの会社から離れていました。離れて何をしてたのかというと、別の新たなビジネスホテルチェーンを設立しており、それが冒頭に掲げた「漢庭酒店」です。なんか書いてる自分もややこしくなってきた。

 シートリップや如家酒店の経営陣と何かあったのか、会社を離れる理由があったのかまではちょっと調べ切れていませんが、何故か上昇気流に乗っていたこの二社を離れて季琦氏は2005年より、また一から新たなビジネスホテルチェーンを作っていました。この漢庭酒店というビジネスホテルチェーンを運営するのは華住酒店集団という会社ですが、江蘇省の昆山駅前店からスタートしてまたこちらも店舗数を現在に至るまで拡大させ続けており、季琦氏の前のねぐらに当たる如家酒店に次ぐほどの大手にまで成長を遂げています。でもってまたお約束というか2010年にまたもアメリカのナスダック市場に上場を果たしていて、ここまで書いてて「お前、どんだけナスダック好きなんだよっ!!」て言いたくなってきます。

 現在の季琦氏は華住酒店集団のCEOを続けているのですが、いくら中国が破格の経済成長を遂げていた期間とはいえわずか十年ちょいの間に三社の上場企業を創るというのは怪物というよりほかないでしょう。特に面白いのはシートリップという旅行予約事業を営む会社からビジネスホテルチェーンが生まれている点で、同じような会社が中国にはほかにもありますが、どっちかっていうと不動産関連業が中心になって動いている日本とはまた別の流れがあってみていて新鮮に感じます。少ない土地をどうこうというわけじゃなく、だだっ広い中国なだけにネットワークなり通信インフラがこの手の経営では重要なのかもしれません。

 最後にこの季琦氏について少し思い出を語ると、2012年に漢庭酒店がどっか別のビジネスホテルチェーンを買収したのですが、そのニュースを翻訳記事化するに当たってちょこっと主要なビジネスホテルチェーンを調べ、シートリップと如家酒店、漢庭酒店が同じ創業家から生まれているというこの事実に気が付きました。初見で面白いと感じて今度ビジネスホテル業界で特集記事でも書いてみようかと企図したのですが、最終的には上司にも企画せずそのまま自分の中で流してしまっていました。
 何故流してしまったのかというと、一つはその頃にはもうオリックスの金子選手みたいに来シーズンは契約せずにFA宣言する気満々だったということと、仮に提案しても上司はこの企画を通さないだろうと踏んだからです。読み物としてはそこそこ面白いものになるという確信はありましたが、現在中国には高級ホテルならともかく、日本のビジネスホテルチェーンはほとんどというか全く進出しておらず、書いたところでその記事を参考にするような日系企業が中国には存在しないため、記事として成立しないと考えました。

 実際に提案していたらどうだったかはわかりませんが今の現時点を持ってしても無理に記事化するまでもなかったと考えています。ブログには好きなことをかけるし自分が面白いと思ったらすぐに載せられますが、メディアライターとしてはやはりメディアに合わせた記事を書く必要があり、そうした好みで書こうとする記事を選ぶべきではないと考えており、あの時の自分の判断は間違っていなかったと思います。とはいえ、やっぱり面白い内容だしほかの人にも見せたいからブログで書いちゃうのですが。

 なお今回の記事を書くに当たって周りの中国人に対して「季琦って人は知ってる?」と訪ね回りましたが、みんなシートリップや如家酒店、漢庭集団は知っていても季琦氏については不思議なくらいに誰も知っていませんでした。なんでこう知名度がいまいち低いのかやや疑問ですが、少なくとも日本人で今日書いた記事内容を知ってる人間となるとかなり限られてくるんじゃないかと思います。

2 件のコメント:

上海忍者 さんのコメント...

よく思うけど、中国でラブホテルを経営したら如何でしょうか?興味ありますか?

花園祐 さんのコメント...

 現時点で時間貸しがあるから伸びないと思う。手出してもつまらないよ。