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2011年1月4日火曜日

ある種の鋼の意思

 よく日本刀は刃物としては最高技術の傑作品と呼ばれていることは知っているが、それがどうしてか、どういったメカニズムを持っているかについてはあまり知らないという人が多いと思います。私自身も刀剣にそれほど詳しくわけではありませんが、日本刀のどこが特殊なのかという大まかな特徴についてちょっと今日は話そうと思います。

 日本というとよく切れるイメージが強いと思いますが、そんなによく切れるというのであれば相当硬い鉄でできているのであろうという風に思うでしょうが実はそれは間違いで、日本刀の大部分は比較的柔らかい軟鉄をベースにして作られております。
 一体何故軟鉄をと思われるかもしれませんがそれにはわけがあり、日曜大工で金属をねじったり切ったりするなど金属加工をした経験がある人ならわかると思いますが、柔らかい金属ほど切断しにくく硬い金属ほど実際には切断しやすいものです。それこそアルミと鉄、それぞれで出来た一斗缶に穴を空けるとしたらまず間違いなく鉄のが簡単に穴を空けることができるでしょう。

 これは何故かと言うと単純に柔らかい金属だと力を加えても金属自身が曲がったり、衝撃を吸収したりするのに対して硬い金属は衝撃をすべて正面から受け止めてしまい、表現的に比較的割れやすいからです。そのため刀剣に関してもとんでもなく硬い鉄で全部作れば確かによく切れるかもしれませんが、恐らく切ってる最中にすぐにぽきりと折れて使えなくなってしまうのがオチでしょう。実際に西洋で作られた刀剣は硬い鉄で出来ているためよく折れてたそうで、切るというよりも叩き割るように使われていたそうです。

 そこで日本刀の話に戻りますが、恐らく昔の刀匠も硬い鉄にすればよく切れるが寿命が短くなり、やわらかい鉄ならあまり切れないが寿命が長くなるなどとあれこれ考えた末に出した決断が、「じゃあ二つ一緒に使っちゃえばいいじゃん( ゚∀゚)」だったのかもしれません。
 日本刀が日本刀たる大きな特徴というのは実は硬度の異なる数種類の鉄を組み合わせて作る点で、おおまかに説明すると日本刀は心金と呼ばれる刀の芯の部分には軟らかい鉄を用い、その芯に対して硬い鉄をまきつけるかのように組み合わせて作られます。そのため戦闘で使用したとしても日本刀は芯からぽっきり折れるということはありえないわけではありませんが他の刀剣と比べて少なく、使用中に外側の硬い鉄の部分が刃こぼれを起こすことはありますがその点は手入れを施すことで再び使用することが出来ます。無論芯が軟らかい鉄だとしても実際に物を切る外側は硬い鉄なので、切るときにはきちんとよく切れます。その分手入れがかかせないんだけど。

 よく強固な意志のことを鋼の意志と言ったりしますが私は硬過ぎるだけの鋼というのはちょっとしたことでぽっきり折れてしまうだけに、期待や熱意を持ち過ぎるとかえって挫折しやすくなってしまうなど精神衛生上よくない気がします。実際に学校や会社に気合入れて入る人ほど予想と違ったなどとして五月病になる人が多いですし、それであるならば日本刀のように、外見は一応硬い意志で覆ってるように見せつつも内心ではいくらか浮気心というか下心など、多少軟弱な意志を保つ方が案外物事を長続きさせることが出来るように思います。
 私自身の経験でも自分の納得するくらい勉学に励もうと大学に入ったところ五月病に罹り、その反省から中国に留学した際は帰国用のオープンチケットを見ては、「いざとなったらいつでも逃げれる」などと不届きなことを考えていたら大過なく一年間の留学を終えることが出来ました。

 会社などにおいてもよく「辞めたい辞めたい」などと言っている輩ほど案外長く勤められたりしますし、目下の日本企業はどこも過重労働を社員に課しますが不況ゆえに我慢しなければと思いすぎると鬱になる可能性もあり、それであれば展望はないけどいざとなったらすぐ転職しようなどと思う方が、実際に実行するかどうかは別としていい影響を与えるのではないかと思います。

 こうした人に見せない内部において薄弱な意志を持つことを私は逆説的に「日本刀流鋼の意志」と呼んでるわけですが、中国に転職したばかりの私は目下のところ、契約期間が切れたら日本に帰るか中国の別の企業に転職するかなりしてさっさと今の会社はとんずらしようと早くも後ろ向きなことを考えてたりします。案外こういうところが日本人らしいかなという気もしつつ。

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