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2010年9月17日金曜日

良い消費者を作る価値

 菅総理の続投が決まって数日経ちましたが世の中は依然と景気をどうにかせねばという話ばかりが中心で、来る日も来る日も景気はどうすればよくなるかなど、ついには私の知り合いも潮風太子さんが批評した「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」を読み出してきました。あんま当てにならんよと忠告しておきましたが。

 さて通常、景気を良くする為にはどうすれば言いかという議論においてはまず初めは政府の景気対策などマクロな話が取り交わされますが、その次となると現実にある企業がどうするべきか、どのような経営をすればいいのかというミクロな話が槍玉に挙げられます。
 しかしこの二番目のミクロな話に対して私は逆説的に、物やサービスを販売する企業ではなくその反対に物やサービスを享受する消費者の側で革新を起こす事の方が、今の日本全体の景気向上につながるのではないかとこの頃よく思うようになってきました。

 あまり人に威張れるほどではありませんが、私も学生時代には接客業のバイトをいくつかやってきました。その時の自分の経験と接客業で働く方の話を読むにつけ、どうもこの手の仕事は手のかかる客、要するにクレーマーに会うか会わないかでその労力というか辛さが決まってくるように感じます。近年は学校などに無理な要求を行うモンスターペアレントや執拗なクレーマーなど徐々に「問題のある消費者」が取りざたされるようになって来ましたが、私の実感だともしこの手のクレーマーに捕まった場合、極端な話をすると全体の労力の九割くらいをそのクレーマー一人に割かざるを得なくなる気がします。
 言ってしまえばその変な客が一人いるだけでそのほかの一般の客に対して振り向ける労力が大幅に減り、供給者側からするとサービスの質の低下はおろか余計な人員が必要になってくるという悪循環が生まれてしまいます。実際に学校の教師の話ではモンスターペアレントに捕まると本来授業準備などに使う仕事を大幅に削られてしまい、普段の授業にも悪影響を及ぼしてしまうという話を聞いたことがあります。

 あんまり効率ばかりを優先するというのも問題ではありますが、私はこの手のクレーマーについては全体の利益のためにも思い切って市場から追い出すということが必要かと思います。先年に日本は消費者庁を発足してより消費者を保護する姿勢を打ち出しましたが、取引においては供給側が消費側に対して情報を秘匿しやすいなど有利な点が多いので消費者を守るという前提は崩してはならないものの、あまりに過保護になりすぎた現在の状況を見るにつけ真面目に頑張っている企業などを消費者からのいらないクレームから守る法律や機関も必要になってきたと考えています。それこそ過剰で執拗で理不尽な要求を行う人間には現状より厳しく罰する刑罰を作ってもいいですし、法的拘束力を持つ揉め事に対する調停機関を新たに作るもいいでしょう。

 ただこうした上からの改革以上に、消費者自身がサービスを受ける事に対してもっと自分自身に責任を持つように意識を変えるという、下からの改革も近頃急速に必要になってきているのではないかと考えるようになりました。

 私自身も全く経験がないとは言いませんが、マニュアルも見ずに明らかに誤った使い方をして物を壊し、それに対して実際にクレームを言わないまでも企業の物の作り方がおかしいなどすこしの欠陥で声高に供給者に文句を言うといったケースが世の中で増えているような気がします。
 卑近な例としていい年して未だに私が熱中し続けるゲームを取り上げると、昔のゲームはバグがあったり絶対にクリア不可能だと言えるような難易度設定で当たり前だったのですが、近頃はバグが全くなくともゲームの構成や演出、果てにはキャラデザなどに一部の人間が感じる不満点がありさえすればあちこちで激しく叩かれ批判されます。

 もし仮に消費者全員が、使用や享受するには問題ないけど商品やサービスを受け取る際に感じる不満点を少し我慢する事が出来れば、供給する側は製造時や提供時の品質チェックなどといった労力を大幅に減らす事ができます。もちろん厳しい日本人消費者の目があったからこそ日本の企業は高品質なサービスを提供できるようになったと言う方もおられるかと思いますが、私は今の日本社会はどこもサービス過剰もいいところで、大半の消費者は供給者でもある事を考えると非常に精神負担の重い作業を自ら作ることで自らの首を絞めているような状況に見えます。

 私がこんな風につくづく思う一つの理由としてアメリカの大型販売店「コストコ」の例があり、この店は完全会員制にすることで一見さんには商品を売りません。この会員制の何がいいのかというと妙な客やクレーマーに対して何か問題を起せば会員権を廃止することで入店や販売をいつでも拒否する事が出来、コストコの行うサービスの範囲内で満足する客だけ相手に出来るので余計な問題を回避できていると言われています。

 私は日本の経済、というより企業はあまりにも消費者におもねり過ぎ、全部が全部とは言いませんが何でもかんでも他人のせいにする無責任な消費者も一部で作ってしまったように思います。こういう風に私が思うのも笑顔一つ見せずに偉そうに物を売ってくる中国社会で生活したという経験からかもしれませんが、「店員の顔が気に食わない」といってクレームをつける人がいる日本社会も中国とどっこいどっこいな気がします。

 今の日本は如何に企業の業績を伸ばすか、サービスや品質の向上を挙げるかばかりが経済誌などで語られますが、むしろあまり細かい点にはこだわらず、正しい使用法をきちんと守る良い消費者を増やし、過度な要求をするクレーマーは思い切り突っぱねてもいいという風潮を作る事が今の日本経済全体を良くする手段としては有効な気がします。

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