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2010年7月13日火曜日

猛将列伝~信陵君

 中国戦国時代において軍事、内政それぞれの分野で並々ならぬ才能を持つ人物は数多くおりますが、その中でも屈指の人材ともなると私の中でまず挙がってくるのはこの信陵君です。

信陵君(Wikipedia)

 信陵君というのは通称で本名は魏無忌ですが、彼はかつて私が書いた「孟嘗君と馮驩」の記事にて取り上げた孟嘗君と同じく、戦国時代後期において高い評価を受けたことから並び称された「戦国四公子」と呼ばれた四人の一人です。この信陵君は魏王の弟でしたがかねてからその優秀さは群を抜いており、それゆえに王位を奪いかねない人物だとして実の兄からは警戒されておりました。

 そんな魏王を恐れさせた信陵君のエピソードに、信陵君が魏王と碁を打っていると隣国から軍団が近づいているとの報告があり、すわ戦争かと魏王が慌てたのに対して信陵君は隣国が狩りに出かけているだけなので慌てる必要はないと全く動じませんでした。果たしてしばらくするとまた新たな報告があり、信陵君の言う通りにその隣国の軍団は獲物の狩りのために出撃していたことがわかり、どうしてわかったのだと魏王が尋ねると信陵君は、自分は独自の情報網を持っており今日隣国が狩りに出かけるとすでに報告を受けていたからだとこともなげに答えました。

 終始こんな感じなので王である兄は信陵君を常に警戒していたのですが、ある年に魏の隣国の趙が秦に攻めこまれて首都を包囲されたため救援を求めてきました。趙には信陵君の姉が嫁いでいたために信陵君は王に救援を志願しますが、勢いのある秦に真っ向からぶつかるのは危険だとして魏王はこれを却下しました。
 やむを得ず信陵君は自分のわずかな手勢のみで救援に向おうとした所、門番の身分ゆえに誰も相手にしなかったものの信陵君だけが賢者だとして慕っていた侯嬴という老人から助言を受け、その助言に従って信陵君は魏の正規兵を指揮下に納める事に成功しました。そしてその兵を率いて趙を訪れるやあっという間に秦を撃退し、趙の救援に成功したわけです。

 ただ信陵君が正規兵を率いるに当たり兄である魏王の命令に逆らって行動したため、信陵君は兵だけを魏に帰すと自分は帰国せずにそのまま趙に止まりました。信陵君はその趙でもあまり身分がよくないものの賢者と呼び声の高い毛公と薛公という二人の人物とまた親しく交際するようになり、信陵君は身分を問わずにその才能で相手を見てくれるとますます人気が高まりました。

 しかしその一方、信陵君の去った魏では恐れていた信陵君がいなくなった事から逆に秦に何度も攻め込まれるようになり、年々その勢力を弱体化させていました。この危機的な事態に魏王は信陵君に何度も帰国を促しますが、暗殺が横行していた時代ゆえ、信陵君は謀殺されるのを恐れてその要請になかなか応じませんでした。
 そんな信陵君を見て、先程の毛公と薛公がこのように諭しました。

「あなた(信陵君)は魏あっての人物なのです。今諸国があなたを評価して競って求めるのは魏という母国があってのもので、仮に母国が滅亡しましたらあなたの正義はなくなり、誰もついてこなくなるでしょう」

 この言葉を受け信陵君はついに魏に帰国し、救援に来た他国の軍勢をすべてまとめ上げるやまたも一人で強国秦を見事に撃退して見せました。この恐ろしいまでの信陵君の活躍に恐れをなした秦は信陵君の存命中は二度と魏に攻め込まなくなったのですが、その代わりに信陵君を政治的に抹殺しようと、魏国内で信陵君が謀反を企てているなどといった噂を流布させて元々警戒していた魏王をさらに警戒させるという手段に出ました。この秦の策にはまった魏王は信陵君を暗殺こそしなかったものの政治からなるべく遠ざけるようにしたため、失意ゆえに信陵君はその後すぐに病気で死んでしまいました。

 この信陵君のエピソードを昔に読んで私が強く印象に覚えたのは、括弧書きで書いた毛公と薛公の、「如何に能力のある人物であっても、寄って立つものがなければ誰も信用しなくなる」という説法です。要するに背中に何を背負っているかという事ですが、なんでこんなエピソードを今日ここで引っ張ってきたのかと言うと、今の枡添要一氏と与謝野馨氏を見ているとつくづくこれがよくわかるなぁ思ったからです。

 この二人はどちらも選挙前に自民党から離脱して新たな党に入り、今回の参議院選挙にてそれぞれの党を実質取り仕切りましたが、自民党時代の名声や人気はどこいったのかと思うくらいに選挙中はおろか選挙の終わった今でも全くメディアに取り上げられませんし、人の噂にも上ってきません。特に桝添氏なんて自民党時代は総理にしたい候補ナンバー1だったのに、多分今このアンケートを取ったらランク外になる可能性すらあるんじゃないかと思うくらいの低落ぶりです。
 私は桝添氏が自民党離脱を発表した際にこのブログで、自民党あっての桝添要一であって、ただの桝添要一に有権者は反応しないだろうと書きましたが、この評論はまさにこの信陵君のこのエピソードから引用したものでした。多分先ほどの総理にしたい候補アンケートなんかあったもんだから、桝添氏は自分という個人が人気があると勘違いしちゃったのかな。

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