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2010年4月29日木曜日

新司法試験合格者の債務問題

 昔まだ私が学生だった頃、法学部に在籍していたある友人にこんな事を話しました。

「言っちゃなんだが、今度ロースクール(法科大学院)が出来るけど去年の司法試験合格者はそれほど増えておらず、俺はこの制度は必ず破綻すると思うから君は行っちゃだめだよ」

 図らずも、この時の私の予言がどうも現実味を帯び始めてきているようです。

 今月の文芸春秋にて、あの宮部みゆき原作の小説、「火車」に出てくる多重債務者の救済を専門に手がける弁護士キャラのモデルとなった、現日弁連会長の宇都宮健児氏がこの問題について寄稿しており、あまりの内容に私も一読して絶句しました。そもそも弁護士会において無派閥者であった宇都宮健児氏が日弁連会長に選出された自体がこれまでからすると非常にイレギュラーな事だったらしく、それだけ司法改革以降の法曹界に問題が噴出していることの表れだと本人も述べております。

 それで具体的にどのような問題が起きているのかというと、一言で言うなれば司法試験合格者の貧困問題です。司法試験の受験者ならともかく合格者であれば後の人生はバラ色なのではないかと私は思っていたわけなのですが、実態はさにあらず、スタートしたての弁護士は身動きも取れないほどに経済的に追い詰められているそうなのです。

 まず現在の主流な弁護士への道というのは法科大学院、いわゆるロースクールでの教育を終えた後に司法試験を受けて弁護士資格を得るというやり方なのですが、この法科大学院での高額な学費を払うために現状で多くの受験者は奨学金などの借金を抱える事となります。そのため司法試験合格後、合格者は基本的な業務や知識を習得するために裁判所にて司法修習生という身分で一年間(以前は二年間)働きながら合格後教育を受けるのですが、現在この司法修習生は平均で400万円もの借金を抱えているそうで、多い人に至っては1000万円にも登るそうです。

 これまでこの司法修習生は公務員身分として在籍中は給与が支払われていたのですが、これが今度からは貸与制、つまり借金として返済義務が課されるように法改正がされようとしているのです。しかもこの司法修習生中は法律で習得専念の義務が課されているためにアルバイトは禁止されており、言わば国から無理やり借金を握らされようとしているわけで、すでに述べたように司法修習生は司法試験に合格する時点で大量に借金を抱えているため、このままだと合格後もまた借金を重ねて司法試験合格者はみんな多重債務者からスタートするという笑えない事態になりかけているそうなのです。

 実際に宇都宮氏は今回の論文にて、このような厳しい現状を反映してか問題があると認識しつつも、多重債務者に高利金融業者からかつてのグレーゾーン金利で支払った余剰金を返還させる代わりに多額の手数料を要求する悪徳弁護士事務所へ就職する新人弁護士が増えていると述べています。新人弁護士からすると自らの理想とかけ離れた現場である事が分かっていながらも、いきなり独立開業など出来るはずもなく、抱えてしまった借金を返すためにこのような稼ぎのいい弁護士事務所へ就職するそうです。またまともな弁護士事務所も司法改革以降の合格者の増加によってどこも人員は満杯状態らしく、ますます問題ある事務所に人が流れるという悪循環に陥りつつあるそうです。

 このような厳しい新人弁護士の現状など今後改革すべき課題が非常に多いと宇都宮氏は主張しているわけなのですが、私としてもこのところの債務返済を行うという弁護士事務所の過剰な広告が目についており、傍目にも今の法曹界が異常な状態なのではないかとかねてより危惧していました。具体的にどのように解決して行けばいいのかとなるとあいにく不勉強のために解決案を持ち合わせていませんが、少なくとも司法修習生の給与問題については宇都宮氏同様に現行の給与制を維持して貸与制へは移行してはならないという意見に賛成です。

 更に言えば、宇都宮氏はこの司法修習生の期間も数年前に二年から一年半、そして今の一年へと徐々に短縮されてきている事も新人教育上問題で、可能ならば昔通りに二年に戻すべきだと主張されてます。あまり専門ではないのですが、以上のような問題点に気をつけ今後もこの問題を見守っていこうかと思います。

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