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2009年12月23日水曜日

北京留学記~その二七、学生寮でのデマ事件

 事の始まりは一枚の貼り紙からでした。私が最初に入った学生寮が補修されるということで新しい寮に引っ越してから確か二週間ほど経った頃でしたが、いつものように授業を終えて寮に帰ってくるとエレベーターの前に一枚の貼り紙が張られており、中国語にて下記のような内容が書かれていました

「このごろ季節が変わりめっきり寒くなってきました。留学生の皆さんは戸締りに気をつけて、窓の鍵は外出時はもちろん在宅時も必ずしめておいてください」

 何だこの論理の破綻した文章は(゚д゚`)!?
 読んだ直後の私の感想はまさにこんな感じで、どうして気候と戸締りが関係するのか、またそれも貼り紙で貼って告知する程のものなのか腑に落ちませんでした。

 そんな貼り紙が貼られて数日後、私の日本人留学生仲間からこの件で妙な情報を得ました。その留学生仲間がやや要領を得ない語り口で言うには、なんでも私達が移った新しい寮の中で事件があり、その事件というのも寮の二階に住む日本人女子学生の部屋に窓から泥棒が侵入し、女子学生を殴りつけて強姦に及ぼうとしたものの抵抗に遭い、注射器を取り出して女子学生に麻薬を打とうするも失敗し、また女子学生を殴りつけて物を盗って逃げていったそうです。そんな事件が起きた為に、事件の事は隠さなければならないが防犯を強化させねばならずあの妙な貼り紙ができたというわけです。

 この留学仲間の話を聞いた直後の私の感想はまたも、

(゚д゚`)!?

 ってな感じでした。まず読んでもらえばわかりますが泥棒の行動が明らかに妙です。泥棒目的なのか強姦目的なのか、麻薬を打とうとする点に至っては支離滅裂です。そんなわけで初めて聞いた時からこの話を疑わしく思い、その留学仲間に情報源などを詳しく聞くとその留学仲間もクラスの別の日本人留学生から話を聞いたそうで、じゃあその日本人はどこから情報を仕入れたのかと聞くとまた別の日本人からという感じで延々と続いていき、最終的にはみんなインターネットに行き着くことがわかりました。

 ではその情報源のインターネットサイトはどこになるのか調べてみた所、もしかしたら複数あったのかもしれませんがそれらしいものが一つあり、その場所というのも当時北京語言大学でも大流行りだったmixiの語言大学のコミュニティでした。そのコミュニティの掲示板には先ほど書いたような泥棒の行動がそっくりそのまま書いており、末尾にて語言大学はこの事件を隠そうとしているからあんな貼り紙になったのだと締めくくられていました。

 結論から言えば、この書き込みはデマだった可能性が非常に高いです。
 当時に私が行った詳しい検証を一つ一つ説明すると、まず私が尋ね回ったことでわかった大きな事実として、この泥棒が入ったという情報が日本人の間でしか共有されていませんでした。日本人以外となると同じ寮の学生でも誰もこの話を知らない一方、日本人学生であれば他の寮に住んでいる者でもこの話を知っており、情報源とされる先ほどの掲示板の書き込みが日本語であることを考えるとさもありなんです。

 そして次に、情報源がみんなインターネットに行き着く割には誰も事件の当事者である、泥棒に暴行されたという女子学生が誰なのかを知りませんでした。一体その女子学生がどんな子で、どのクラスに居て、知り合いは誰で、事件後はどうなったのかとなるとみんな誰も知らず、海外での日本人学生の狭いコミュニティを考えると誰もこの点について答えられないというのはありえないでしょう。

 そして極め付けが掲示板に書かれた泥棒の辻褄の合わない行動です。一体何が目的なのかわからないのはもとより、それだけいろんなことをしながら女子学生が悲鳴を上げてそれに誰も気がつかなかったというのも不自然です。普通殴られたりもすればテレンス・リーじゃないんだから誰だって悲鳴の一つは上げるのが普通で、学生寮であれば悲鳴が聞こえようものなら隣室の学生などが必ず気づくはずです。

 実際に当時私が住んでいたこの寮はそれほど防音性が良かった訳でなく、隣室の学生が大騒ぎをしようものなら騒音が気になるくらい聞こえ、またこのデマが広がる以前にも寮の四階の部屋に済む日本人女子学生が泥酔して帰ってきて、叫び声を挙げたり辺りの壁を叩いたりするものだから私の留学仲間に寮の人間が助けを求めてその女子学生を抑えて部屋に入れたことがあったのですが、その留学仲間は七階の部屋に居ながらもその女子学生の叫び声が聞こえたそうです。

 では本当は何があったのかというと、先にも言ったように泥棒が入ったというのは本当だったと思います。というのもその後すぐに比較的進入しやすい二階(一階はロビーのみで部屋はない)の窓に鉄格子をはめられるようになり、また最初の貼り紙も泥棒が入った事を受けてのものだと考えるとあの論理破綻な文章もやや理解できます。

 そうなるとどうしてこう大げさに書き立てるデマが流れたのかになりますが、これも私の考えだと日本人に対し強く注意を促そうと、発信者が内容をわざと過激なものにして広めたのかとが原因だと思われます。幸か不幸か、その筋書き通りに日本人の中においては十分に注意が喚起されましたが。

 この一件で私が強く憶えたのは、人間というものは案外、このような素性のわからない情報でも環境次第で簡単にデマに踊らされるのだということでした。恐らく海外での狭い日本人コミュニティだからこそデマが流れたのでしょうが、それにしたってもう少しみんなも疑ってもいいんじゃないかというような内容だっただけに、かくも情報の前では人間は無力かと思わせられた事件でした。

 留学記の記事はここまでですが、実はこの記事を書くに当たってあるデマと合わせて書こうと前々から考えていました。そのデマというのも、先月行われた民主党議員らによる事業仕分けにて、漢方薬の保険適用が除外されるというデマです。

 詳しい経緯については最後に引用するサイトを読んでもらいたいのですが、医師が処方する漢方薬は現在健康保険が適用されているのですが、漢方薬は医療効果がはっきりしないので無駄になっており、事業仕分けにて保険適用を除外することが決められた、といった報道がテレビ、新聞、インターネットといったすべての媒体で流れ、現に私自身もNHKにて確認し、その番組内では漢方薬を日々服用している男性が値段が上がると困るというコメントをしていました。

 この報道を受けてかネット上ではこの仕分けに反対する署名が集められたり、漢方薬大手のツムラなど公式に社長がじきじきに会見して反対するなど大騒ぎとなったのですが、未だに議論されているスパコンの予算と比べるとこっちの方は続報がピタリと途絶えるなど完全に静まり返ったのを見て私もデマだったと判断しました。

 ちょっと長いので私は確認していませんが、その保険適用除外が決められたとされる仕分けの会議を見た方によるとやはり除外をするといった発言はおろか、漢方薬という言葉すら一切出ていなかったそうです。それにもかかわらずあれだけ署名が集まったり、大騒ぎしたりしたと考えるとなにやら日本に対して不安を感じてしまいます。

 それにしても、この一件がデマだとわかったのも事業仕分けが公開されていたことに尽きるでしょう。公開され、またその会議の過程がネット上でも見られる動画となっていたことから早くに沈静したのであって、そういう意味で鳩山内閣に対してこの点だけは誉めてあげてもいいかと思います。

漢方薬保険適用除外は【誤報】です! 仕分け人枝野議員が明言(JANJAN)
漢方薬に関するデマ(きっこのブログ)

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