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2009年5月19日火曜日

現状分析の必要性

 これは有名なエピソードなので知っている方もたくさんおられると思いますが、元プロ野球選手の牛島和彦氏が現役時代、当時の投手コーチから「9回2死満塁、カウント2-3からどんな球を投げるか?」という質問を受けた際、他の投手がそれぞれの決め球を挙げる中で一人だけ「分からない」と答えたそうです。その理由を問われると牛島氏は、

「どのような状況で2-3となったかによって、最後に投げる球も変わってくる。2-3となるまでの経緯がないと、最後の球も決められない。点差によっても投げる球は変わるし、一概に決められるものではない」(Wikipedia引用)

 というように答えて、コーチも納得したそうです。なお後年に牛島氏はこの時を振り返り、もしこの時のコーチが稲尾和久氏でなければきっと嫌われただろうと述べています。
 これはなかなか含蓄深いエピソードで私も気に入ってよく使っているのですが、この時の牛島氏の発言の趣旨を改めて要約すると、「現状のピンチに対する対策はなぜピンチに至ったのかという過程、そしてそのピンチが今後どれほど広がる可能性があるのかを把握していなければ決められない」というものだと私は理解しています。

 この意味は何も野球に限らず日常の様々な場面でも当てはまり、よくよく考えてみると何かトラブルが起きた際に人は一般的な対処法に頼りがちですが、状況によってはその対処法が逆効果を起こしてしまうことも少なくない気がします。例えばこれはある実例ですが、昔アマゾンの密林に航空機が墜落した際、その後の調査で奇跡的に墜落後も生存していた乗客が何人かいたようなのですが無事に生還したのはたった一人の少女だけだったそうです。
 通常、山で遭難するなどサバイバルな状況になった場合は下手に動いて体力をすり減らすよりもじっと救助を待った方が生存できる確率は高いといわれているのですが、この時の墜落の場合は密林という墜落地が見つけづらい場所であったことから、墜落後にすぐに人里を求めて密林を歩いた少女だけが生き残り、その他の墜落後に生存していたであろう乗客は皆墜落地を動かずに死亡してしまったそうです。なおその墜落地は少女が保護された後に行った証言から判明したそうです。

 このようにサバイバル知識としては非常に一般化している「動かずに救助を待つ」という対処法も、時と状況によっては逆の結果を生むこともあり、よくよく自らの置かれた現状と近く予想される事態を考慮して対策や行動を行うことが非常に重要だと私は考えております。

 そういう意味で現下の政府の経済対策として提出している補正予算案について、私は果たして現状分析がしっかりなされて作られているのか疑問に思ってしまいます。今日街頭に立っていた選挙候補者などは小出しに財政出動はやるべきではなくまとめて一気に行うことが重要だと演説しており、確かにその言も全く理解できないわけではありませんが、どこに問題があると分かって効率的に資金を振りまけるのかというと、今回の補正予算案はエコポイントがなんに還元されるのかがまだ決まっていないのをみるとそういった現状分析はしっかりとなされていないのではないかと思ってしまいます。

 こういう風に思うのも私がやたらと調査にうるさい社会学士の端くれだからかもしれませんが、私は今の補正予算案、ひいては国会を通過した本予算案もいわゆる一般的対処法として戦後扱われ続けた「ケインズ的不況対策」に忠実に則ったものに見えます。ケインズの提唱した政策は確かに過去に実績を挙げたとされますがそれが今回の場合にも適用できるのか、そうした議論が今国会で行われることを期待します。

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