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2008年1月12日土曜日

患者のたらい回しという言葉の欠陥

 今回のネタは、以前に知り合いの医者から聞いた話です。

 何もその人に限らないのですが、大抵の医者はマスコミの事を嫌っています。というのも、昨今になってようやく明らかになってきましたが、医療現場の苛酷な労働はほとんど報道しないくせに、ほんの少しの医療ミスについてはしつこいくらい報道するからです。
 私の知り合いのその医者はもう60代の歯科医ですが、他の医者の話で、なんでも完全に事実無効な医療ミスが報じられたので新聞社に文句を言いに行ったところ、その新聞社の社員は、「我々はあなた方医者より、圧倒的大多数の大衆の側につきます。だからあなた方を敵にしても怖いとは思いません」といい、一切謝罪はしなかったらしいです。

 そこで今回の話ですが、もしホテルで客室が満室だった時に新たな客が来て、しょうがないから帰ってもらったときにたらい回しという言葉はまず使われないでしょう。にも関わらず、最近問題になっている急患の病院受け入れがなかなかうまく行かないのを、何故もってたらい回しと表現するのだと、非常にその人は怒っていました。
 実際問題、夜間に急患が運ばれてきても肝心の医者自体がほとんどいません。また実際にベッドがすべて埋まっている事もほとんどざらです。そうした、病院が対応しきれない患者を断る事がどうしてたらい回しといわれて非難されるのか、これは以前から私も気にかかっていた問題でした。

 そもそもこの問題が注目されるきっかけになった妊婦の緊急搬送についても非常に問題のある報道の仕方がなされています。ごくごく一部では報じられていますが、そのような緊急搬送を受けた人間のほとんどは、出産前に行く定期検診に言っていなかったようです。定期検診とはその名の通り、妊娠の状態を見る検査の事で、この検査を通して出産予定日などを決めるのです。そして決められた出産予定日が近づくと、まぁ普通の人間なら大事に備えて入院するでしょう。
 このように、患者の側にも準備してもらわなければ産婦人科医も予定が立てられないのです。なのに急にお産だといっても、それこそ他の妊婦に構っている医者は対応できるはずがありません。ほとんどのマスコミはこの点を追究せず、緊急体勢を取っていないといっては病院を責めつづけているのが個人的にも腹立たしいです。もしそんな緊急体勢を取ったら、労働時間は飛躍的に伸び、医者が休む時間がなくなるのは明白でしょう。

 本当はあまり使うべきでない流行語ですが、このような急に病院に駆け込もうとして流産になったのはやはり一部自己責任があるでしょう。もし入院するお金がなかったというのなら、確かに問題ですが。
 だからこそこの問題を解決するには、病院の緊急受け入れ態勢の拡充や、受け入れ先を探すコーディネーターの配置よりも、妊婦への定期検診の徹底や出産前入院の費用補助の方がよっぽど安上がりで効果的であるとはっきり断言できます。

 以後は私の完全な妄想ですが、マスコミがこのような手段を紹介せずひたすらに医者の勤労に期待する方法を紹介したり、前述のように医療ミスばかりあげつらって報道するのは、ひとえに日本政府と結託しているせいかもしれません。日本政府としてはこれ以上医療費負担を大きくさせまいと2005年前後に行われた構造改革会議にて散々に医療関係の支出を抑えてきました。それによって医療現場が荒廃するのは目に見えていたのですが……いやまぁ、当時は私もそりゃ乗せられてましたよ。医者は高給で医療ミスもよく報道されているのだから、この医療費削減への反対を日本医師会がするのはどうかなぁと思ってました。
 現場の医者、前述の歯科医の方以外に私が講演を聴いた川崎市立川崎病院の医師である鈴木厚氏などはこの動きに早くから問題だと感じていたようですが、多分私以外もマスコミの医療ミス報道に乗せられて問題視しなかった人は多いのではないかと思います。逆を言えば、マスコミが医師を叩いてくれたおかげで、日本政府は大した反対運動を起こさずに費用を削減できたというわけです。

 ま、政府がマスコミの動きに乗ったか、マスコミが政府に踊らされたかはわかりません。でも一番ありそうなのは、二人揃って医者を叩こうとした、この構図が一番わかりやすいし、結果的にはそうなっています。

 最後に、医療問題がわかりやすくなる本として前述の鈴木厚氏の本を紹介します。秀和システムから出ている本で、「崩壊する日本の医療」という本です。でも本よりこの人は講演の方が絶対に面白いと思う。正直、医者より漫才師の方が向いてるくらい話がうまいし。

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